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A loved one

女性同士の恋愛を取り扱う百合小説サイトです。オリジナル小説で主に年上×年下を取り扱っています。無断掲載・無断転載・複製・配布等は禁止です。以上の事を踏まえた上でのご入場宜しくお願い致します。

第18章 束の間の幸せ③ side椿 




ーーーガチャン


と、無慈悲な音が私の短い恋に幕を閉じた。




聞いてしまった。



扉が閉まる音を、聞いてしまった。



追いかけたかった。



あんな事、言いたくなかった。



あの子のあんな顔、見たくなかった。




「バカ……」




ズルズルとキッチンの床に座り込み、コーヒーのカップを床に置き手のひらで顔を覆う。




もう、傷付けないって決めたのに。




やはり私はあの子を傷つける事しかできないのだろうか。

じわりと、目頭が熱くなる。




途端にとめどもなく涙が溢れてきた。

耐えきれず声を出して泣き叫ぶ。



しばらく、キッチンから泣き声がなりやまなかった。



***



涙がやっとおさまると、冷めたコーヒーを持ちリビングへ行く。
ふと、床に落ちているチラシに目がいった。


拾い上げるとそれがなんなのか分かる。





アロマキャンドルの広告。


自分の名前や恋人の名前、お互いのイニシャルを掘ったりできるものだ。











思い出す。



私が呼び掛ける前にあの子も私を呼びかけていた事に。





途端に胸から喉にかけて何かが駆け上がる。
















ーーー愛おしい


堪らずチラシをくしゃっと抱きしめる。




私は、気が付いていた。









気が付いていたのだ。






どうしようもなく、あの子の事がーーー
































楓が大好きなんだって。



ブーブー、と机の上の携帯が鳴る音で我にかえる。

一瞬、楓なんじゃないかって期待が胸をよぎるが、画面に大きく表示される名前はーーー









近藤 勇


会社の上司。

少し前までの私なら仕事の話でも嬉々として電話を取っただろう。






私は知ってる。



この電話は仕事の話でもなければ、嬉々として取る電話でもない。




「……もしもし」

『なんだ、遅かったな。何かしてたのか?』

「……はい、少し家事を」

『そうか。……それで"やる事"はやったか?』




"やる事"



それは、私が楓に別れ話を切り出す事。





この人は知っていた。




私と楓の関係を。



***



それは数日前





「楠見」


仕事中に突然近藤部長に呼ばれた。


「はい」

そう振り返ると、部長は何も言わずに手招きするとスタスタと歩き出した。

慌てて追いかけると部長は小会議室に入っていった。



一体なんだろうか。


仕事のミスでも見つかったのか。

しかしそれならばあの場で言えばいい事だ。



疑問に思いながらも部屋に入ると、部長はおもむろに切り出した。












「あの高校生とはどんな関係だ?」




「っ!!!」




突然の事に声を出す事も、体を動かさなかった事を褒めて欲しい。

しかし、顔に出てしまったのか、


「やはりな」


そう言うと椅子にどかっと腰を下ろした。




なんで、知ってるの。

貴方に、なんの関係があるの。

それを知って、私にどうしろと。


「別にその関係を非難するつもりは毛頭ない。ただ、お前はあの子の幸せを願わないのか?」




幸せ?

あの子の幸せを願わない?

そんな事、あり得ない。



「そんな事ありません」



いろいろな疑問が頭の中で行き交うが、それだけは言える。

しかしーー



「お前の考える幸せってやつは、同性のお前に縛り、何も生み出さない関係を続ける事か?しかもお前は社会人だ。そんな障害だらけのお前があの子を幸せにできると思うか?」

「っ!!!!!」





考えていた。


それはずっと、付き合う前からずっと考えていた事だ。




私と、楓の関係を証明するものは何もない。


結婚もできなければ、子供もできない。





でも


自惚れでもなんでもなく、楓は私の事が大好きなんだと分かる。
今まで気がつかなかったのが不思議なくらい、会うたびに楓からの熱い視線を感じる。






楓は、私といて幸せなんだと、勝手に決めつけていた。













でも、


もしかしたら、


それは私の勘違いで、


楓はーーー


















別の人といた方が幸せなんじゃないかって。






私じゃ幸せにできないんじゃないかって。









ーーー思ってしまった。


「そ、れが、部長になんの関係が」


その言葉を聞いた部長は、一瞬目を見開くが、先ほどの真剣な目つきではなく私を安心させるように微笑みながら、


「別にお前らの関係をどうしようとか思っては無い。ただ、心配になっただけだ」


そう言うと部長は椅子から立ち上がり部屋を出て行く。





「ただーーー」



















「俺はお前と結婚前提の付き合いをしたいと思っている」









ーーーそう告げた



***



「はぁーー」


本日何度目のため息だろうか。

本日というよりも、先ほどの部長との会話後の1、2時間に、一体どれほどため息を吐いたか。



そう思いつつ、


「はぁーー」


ため息が出る。


「どした?」

止まらないため息にしびれを切らしたのか、後ろの席で仕事をしていた茜が声をかけてくる。


「……今日仕事後付き合って」

「ん、分かった」


それほど私は深刻そうな感じなのだろうか。
茜がふざける事なく再び仕事につく。



ため息をつきたいのをグッと我慢し、バシッと頬を叩き仕事に集中した。



***



「あーーもう、なんでこのタイミングであんな事言うのかなー」



仕事後、約束通り茜と居酒屋に来てグチグチと文句を言う。



「もう少し早ければ喜んでたのに、なんなのよ」



チビチビと何杯目かわからないカクテルを飲む。

目の前の茜は、少し呆れた顔でサラダを貪りながら、





「それでも椿はあの子を好きになってたと思うよ」


ピタリと、グラスを持つ手が止まる。


「どうして?」


茜は新しく来たおつまみに手を伸ばしながら、


「自分で考えな」


「えーー、いーじゃーん、あーかーねー」



ブーブーと口を尖らせながらカクテルを避け机に顔を伏せる。





目を閉じると、浮かんでくるのはあの子の顔。


真面目な顔、笑った顔、照れた顔やいじけた顔。


そんな色とりどりな表情を見れば惚れてしまうのも仕方ないのかもしれない。





でもーーー














あの子の幸せを思えば、その表情を見る人は私では無いのだ。






あの子を笑顔にするのは、

















私でない誰か。





あの子のいろんな表情を引き出すのは、

















あの子の事を好きでいてくれる"男性"






あの子の幸せを願うのならば、
















私は隣で手をつなぐ事も許されないのだ。




「もう、どうしたらいいの私。わかんないわ……」


弱音が口を出る。

女性が社会で生きていくためには強くなければいけない。


弱音なんて、吐いている暇はないのだ。





ただ私は、


あの子にあって、














弱くなった。


あの子に、













ーーー甘えたいと思ってしまった。


年上という縛りがあるせいであの子に甘えた事はない。
甘える手前で、グッと我慢出来ていた。



ただ、

今は無性にあの子に会いたい。



会って抱きしめて泣き叫びたい。



この胸の不安を全部ぶちまけたい。





















ーーー私でいいのか、って。



あの子は優しいから、



多分テンパりながら、
「こっちのセリフですよ!」
とか言うんだと思う。


あの病的なまでに自分を卑下する性格はどうにかならないのかと、いつも思っているのだけど。

そのセリフを言った後は人が変わったように優しく抱きしめてくれるんじゃないかって勝手に想像する。








でも、そんな事をしたら"私が"あの子から離れられなくなってしまう。


それだと、あの子は幸せになれない。







『俺はお前と結婚前提の付き合いをしたいと思ってる』







ふと、部長の一言が頭をよぎる。


その瞬間、ストンと頭の中で何かが落ちた音がした。






あぁ、


そっか。















ーーー私は私なりの幸せを見つければいいのか。



***



翌日


「近藤部長」



私は部長に、




「今週末までには話をつけておきます」




そう告げた。



***



結局、話をつけたのは週末の夜。

示し合わせたように掛かってくる電話はその所為だ。




私は、一呼吸置いてから、



「はい、小一時間程前に話をつけてきました」


『そうか』


部長は一言、そう言うと黙り込んだ。


そして、言いにくそうに、






『それで……返事を、聞かせてくれないか?』




俺はお前と結婚前提の付き合いをしたいと思ってる。




その返事のことだろう。

私はすぐに答えず、




「私、幸せって人それぞれ違うと思うんですよ」


突然のことに部長は何も言わず聞く。


「世間一般で言う幸せって、女性は結婚して家庭を築くこと、男性は出世して稼いだお金で家族を養うこと」















「でもーーー私の幸せってそこにはないんですよ」


部長の唾を飲み込む音が微かに受話器越しに聞こえる。


「私は、近藤部長のことが好きでした。もう少し早くに言ってくれれば、もしかしたら承諾していたかもしれません」



「でも、今、私は、あの子のことが、どうしようもなく好きなんです。ベタですけど、あの子が幸せなら私も幸せなんです」














「もう、私の隣はーーーあの子じゃないと駄目なんです。だから、ごめんなさい」


『……そうか』


私の言葉を聞いて、部長は先ほどの言葉と同じことを言う。


『分かった、ありがとう、頑張れよ』


そう言うと部長は電話を切った。

ツーツーと無機質な音が、部屋の静けさを強調させる。



だらりと、力なく手を下ろし、トスっとソファに座り込む。















両手で包むように携帯を持つ私の手に、一雫の涙が落ちた。



END
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category:  第18章束の間の幸せ

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コメント

初の椿さんサイドで、気持ちがわかってスッキリしたものの悲しい。この物語はとことん悲しすぎる。
あい #- URL [2016/02/29 20:03] edit

Re:

あいさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます!

こんな悲しい話書く気は無かったんですけどねぇ、、、一体いつからこんな路線になってしまったのか、、、
颯 #- URL [2016/03/04 00:19] edit

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