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A loved one

女性同士の恋愛を取り扱う百合小説サイトです。オリジナル小説で主に年上×年下を取り扱っています。無断掲載・無断転載・複製・配布等は禁止です。以上の事を踏まえた上でのご入場宜しくお願い致します。

第4章 本音は何処① 

 次の日、私は約束通り楠見さんとの待ち合わせ場所にいた。
そう、毎朝の通学の時に待っている、駅のホームのベンチだ。
楠見さんとの待ち合わせ場所と言ったらここしかないくらいだ。

 緊張しすぎて30分も早くに来てしまった。
今日はうまく笑顔を作れるだろうか。
引きつってなければいいんだが。
昨日のあれを見てしまった今日、もう楠見さんに追及する必要はなくなった。
ただ今日という日をうまく乗り越えられるかどうかにかかっている。

 あぁまだ20分もある。
えぇと今日の禁句は昨日のこと、好きな人のこと、そんなもんかね。
あれ?地味に少ないな、いやでも内容がデカイからいいか。
あとじゅっぷn

「お待たせ?」


来た!!


すぐに声で分かってしまうこの耳をどうにかしてほしい。
そしてただ声を聞いただけでドキンと高鳴る鼓動もどうにかしてほしい。
そしてなんでクエッションマークつきなのか。

冷静を保って振り返るとやはりそこには楠見さんがいた。
私の顔をみると安心したようにそばまでやってきて、ハッとしたようにさりげなく一歩下がった。


――ナンデ?


 わからない。
楠見さんがわからない。
安心したような顔を見せたにもかかわらず、なんで遠ざかるの?
そんな疑問を飲み込んで無理やり笑みを作った。

「なんで疑問形なんですかー」
「いや、何か横から見たら真剣な表情で一点を見つめてて、なんか……あれだったから」

言葉を濁すようにえへへと笑う楠見さん。
そんな仕草にもこの気持ちに気がついてしまった今では鼓動が早まってしまう。

「えーなんですかーあれじゃわかんないですって」

 わざと無邪気な風を装ってこの気持ちを隠し続ける。

「えーそれ言わせちゃうのー?」
「言わせちゃうんですー」
「えー、んー。あれだよーなんて言うか……カッコよかったから、あれー?楓かなって迷っちゃったの」

 思考が止まる。
 目の前には恥ずかしそうにはにかむ楠見さん。
ここは駅のホーム。
これからご飯を食べに行く。
今言われた言葉、

「カッコよかったから」



――期待しちゃうじゃないか



 期待させないで、そんな上っ面な言葉で私を惑わさないで、私の恋は決して叶うものではないと確信させて、期待させて、傷をつけないで――

「やっ、やだなぁー照れるじゃないですかーはにかみながら言うとか反則ですよー」

 さっと目をそらしながら立ち上がる。
丁度電車が来たのだ。

「楓が言わせたんでしょー。っていうか」

楠見さんは列に並んだ私の隣に来て、さらっと落ちる長い髪を気にする素振りも見せずに私の顔を覗き込んだ。
その口元はニヤリと上がっていて、私の弱みを握り取ったような、そんな顔をしていた。




「照れるんだ?」





私はカァっと顔が赤くなるのを感じた。
咄嗟に顔をそむけたが見られたに違いない。

 なんで、なんなの?さっきまで遠ざかっていたのに、なんで急に近くに来たの?
からかってるの?私の気持ちに既に気が付いていて、それを利用してからかってるの?
もしそうだとしても……私の気持ちは変わらないのかもしれない。

それほどまでに私は楠見さんの惹かれてしまった。

「そりゃー照れますよーこんな綺麗な人に格好いいなんて言われたら」
「……――こと……わ――でよ」
「え?」

丁度来た電車に先に乗り込もうとしたとこで、楠見さんが一瞬立ち止まって何かを言った。
しかし、その声は満員電車に入りかけていた私には聞き取れなかった。

「ちょ楠見さん、今何て?」

 今すぐここで聞き出さないと一生聞けないような、そんな気がした。

しかし、休日の満員電車は私たちに容赦はしなかった。

 楠見さんの言葉を聞き返そうと駆け寄ろうとしたが、誰かの足に引っ掛かった。
体勢を立て直そうとするがさらに後ろから追い打ちをかけるように押された。
当然前に倒れこんだ。
目の前には楠見さんが――

「んぐぅ!!??」

 こんなこと、漫画以外にもあるのな……てか、想像以上に柔らかいのなこれ。
しかもなんかいい匂いする。
駄目だ、なんか気が飛びそ――

「プハッ…あ、の。すみません、決してわざとでは……」
「う、ん。大丈夫よ……あの、手」

手?
うん?そう言えば顔を上げるために手で支えた。手を置いた場所は?
無意識のうちに手を動かす。

「~っ!」

 やっ柔らかい!……じゃなくて!

「わぁぁ!すっすみませ、ん?」

 咄嗟に手を放す。
しかし、手で支えていたのだから当然前のめりになって再び楠見さんの胸に。
手は見事に両脇に入り、抱きついているような形になってしまった。

 焦った。
当然焦った。
今度は手を置く場所を間違えないように――

「うぐっ」

 いつの間にか次の駅についていた。
さらに入ってくる人たちでより一層押し潰される。
こっこれは、身動きがとれない!
なんとか、顔をそらして息を吸う。
しかし、頬には変わらず柔らかい感触。
あ、やばい。
意識し始めたら顔が熱い、これは赤くなってる。

「あ、えと、すっすみません」
「……ふふっ顔赤いけど?」

 楠見さんは大人の余裕とやらで私をからかう。
 私は何も言えずに体勢を立て直す。
と言っても抱きついているような状況は変わらない。
ふと一瞬視界の端にとらえたものに目を疑った。
確かめようと顔をあげると、

「……楠見さんも顔、赤いですけど?」

そう私が言うと、余裕そうだった笑みは消え、僅かだった頬の紅潮が一気に広がった。



可愛い



 いくら楠見さんに彼氏がいたとしてもこの気持ちが消えるわけではない。
むしろ高まっていく一方だ。
仕方なくでもいいから、こんな私と一緒に居てくれるのなら……この気持ちを隠して行く代わりに、今、この時間だけ、楠見さんをください。

 私はそっと、両脇のところでとどまっていた両手を楠見さんの背中に回す。
ピクリと反応する楠見さん。
これで「抱きついているような」ではなく「抱きついている」状態になった。

「なん、で」

 さっきよりも赤くなった顔に驚きの表情も混じっていた。
私はそのまま目を閉じて、楠見さんに体を預けた。

 今だけ、今だけ――

「さぁ、なんで、でしょうね」

 今だけいつもの立場が逆になった。
いつもは楠見さんの方が余裕のあるような笑みを浮かべ、私は顔を赤くして俯くのみ。
それが今は楠見さんの方が顔を赤くしている。

 楠見さんはどうしていいのか分からず、ただ抱きつかれるままだった。


『次は~~駅、~~駅』

 いつの間にか降りる駅に着く、幸せな時間はこんなにも早く過ぎてしまう。
私は名残惜しかったが、内心渋々、見た目はあっさりと楠見さんから身を引いた。

「ぁ……」

 楠見さんの声が聞こえた気がしたがあえて、聞かなかったことにした。
代わりにぼーっと突っ立ってる楠見さんの手を取った。

「ほら行きますよ」

 お母さんになった気分だ。
そのまま手を繋ぎながら駅を出た。
駅を出てすぐのところで急に私が握っていた楠見さんの手から力が加えられた。

「楓“ちゃん”手汗すごいよー?」

 慣れないことを無理してしてるということを見透かされたようで驚いた。
そして私の呼び方が変わってることにショックを受けた。

「あっ暑いんです!仕方ないんです!てか、ちゃん付けしないでくださいよ」

 暑いと言っても今は12月、冬だ。

「楓ちゃんが“楠見さん”なんて他人行儀な呼び方するからでしょ?」
「あ、う」

 確かにそうだが、それはこれ以上楠見さんに近づいてしまったら気持ちを抑えられないような気がしたから変えたのであって。
しかし、そんなことを言えたら苦労しない。

「わぁーかりましたよ。行きましょう、“楠見さん”」

 ふと、私が楠見さん、と変わらない呼び方をしたとき一瞬だけ寂しそうな顔をしたような気がした。

「そうだね、行こうか“楓ちゃん”」

 わざとらしく、ちゃん付けする楠見さんの顔にさっきの表情は無かった。
見間違いだよな……




 ご飯はどこかギクシャクしながら無事終えた。
帰りの最寄りの改札をでたところで楠見さんと別れる。

 もうこれで楠見さんとの関係は終わった。
あとは、この気持ちの自然消滅を待っていればいつかまた、こんな苦しい気持ちを抱えずに流れるだけの人生を生きられる――



筈だった。



 思い出したようにふいに楠見さんに呼ばれた。
振り返ると楠見さんはケータイを両手で包んで立っていた。

「なんでしょ?」
「そーいえば楓……ちゃんのアドレス知らないなぁーって、交換しない?」



え。



単純に驚いた。

 そんなことをしたらこれからも私と関わらなくちゃいけないんだよ?
今日で最後の日だったのに、今日さえ我慢すればもう私と会うことも、話すこともしなくていいんだよ?
なんで?最近の雰囲気の違いは私に耐えられなくなったからじゃないの?
それでもアドレスを交換するだなんて……お人好しにも程がある。

 これは楠見さんの優しさ。
その優しさを私が受け取らない訳がなく、

「そう言えばそうでしたね、じゃあ楠見さんから送ってください。後でメールします」

ピロリン

 私の電話帳に「楠見 椿」と新しい名前が登録された。
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